以前、営業リスト100社をClaude Codeで作った全手順という記事を書きました。あれには続きがあって、しばらく書けずにいました。作ったリストが、使われないまま置いてあったからです。
条件を決めて、1社ずつ検証して、対象外を落として、表にする。ここまでは終わっている。それでも1社も接触していない期間が続きました。リストは、作った時点では資産になりません。送り切って初めて資産になります。
いま私たちAlterSyncは、問い合わせフォームからの新規開拓を5〜10社ずつの「ラウンド」として回しています。この記事は、その1ラウンドをAIとどう分担しているかの記録です。ひとつだけ先に言っておくと、一番効いたのはAIに任せた工程ではなく、任せないと決めた1つのほうでした。それが何かは最後に書きます。
送る前の工程のほうが、ずっと長い
フォーム営業と聞くと、文面を作って送る作業を想像すると思います。実際にやってみると、送信そのものは全体の一部でしかありませんでした。
| # | 工程 | 中身 |
|---|---|---|
| 1 | 未接触の抽出 | 台帳を突き合わせて、まだ触っていない会社だけを残す |
| 2 | 実査 | 1社ずつサイトを開き、送ってよい相手かを確かめる |
| 3 | 文面 | 共通本文+その会社だけの2段落目を作る |
| 4 | 入力 | 各社のフォームに全欄を入れる |
| 5 | 記録 | 送った直後に台帳を更新する |
この5つのうち、時間を食っていたのは1と2でした。そして最初に事故が起きたのも、同じ1と2です。以下は、そこで実際に踏んだものです。
AIに渡した工程と、人に残した工程
先に結論の表を置きます。うちで動いている分担はこうなっています。
| 工程 | 担当 | そう決めた理由 |
|---|---|---|
| 未接触の抽出・母数の引き算 | AI | 台帳を2つ突き合わせる作業は、人がやると必ず数え間違える |
| 各社サイトの実査・判定理由の記録 | AI(一部を人が目視) | 読む量が多い。ただし目で見ないと分からないものが残る(後述) |
| 共通本文と個社別の2段落目 | AI | 20社ぶんのサイトから事実を1つずつ抜くのは、量の仕事 |
| フォームへの入力 | AI | ここを人に戻すと、自動化した意味がほぼ消える |
| 同意チェック・画像認証 | 人 | 仕組み上そうなっている |
| 送信ボタン | 人 | 外に出る瞬間だけは、こちらの意思で押す |
一度、「入力までAIがやって、貼り付けと送信は竹下が全部やる」という案を出したことがあります。却下されました。理由は単純で、1社ぶんの手入力なら成立しても、10社を毎回人が貼っていたら自動化の意味が消えるからです。どこまで渡すかを曖昧にしたまま始めると、たいてい人の側に作業が戻ってきます。
目で見ないと分からないものが、1つ残った
実査の工程で、AIに任せきれなかったものがあります。サイトに掲げてある「営業のご連絡はお断りします」の記載です。
テキストとして書いてある会社は、読めば分かります。問題は、その一文を画像バナーで置いている会社でした。ページのテキストを解析しても、そこには何も書かれていないように見えます。実際にうちは1社、これを見落として送ってしまいました。
画像を読ませれば済む話かもしれません。ただ、見落としたときに失うものが釣り合いませんでした。断りを掲げている会社に営業を送るのは、その1社を失うだけで終わらない種類の失敗です。支援先の営業代行としてやっている場合は、依頼主の会社名でその失敗が起きます。 そこで、実査の最後に人が1回だけ目で見る、という工程を型に残しました。
AIに任せる範囲を決めるとき、判断の速さで線を引くと間違えます。取り返しがつくかどうかで引くほうが、あとで揉めません。
同じ会社に2回送らない、という地味な要件
新規開拓でいちばん怖いのは、送れないことではなく、同じ会社に2回送ることです。
うちの場合、接触の記録が2箇所に分かれていました。フォーム送信の台帳(CSV)と、支援先と共有している表(Excel)です。片方だけを見ると漏れます。実際、架電が済んでいるのに共有表のステータス欄が空のままの行があり、危うく重複接触になるところでした。
対処として型に入れたのは、引き算の過程をそのまま残すことです。
| 段階 | 例 |
|---|---|
| 全体 | リストの全社数 |
| − 対象外 | 判断軸から外れた会社 |
| − 接触済み | 架電・面談などで既に触れている会社 |
| − 送信済み | 前ラウンドまでに送った会社 |
| = 残り | 今回のラウンドの母数 |
結果の数字だけを出させると、合っているかどうかを誰も検算できません。過程を残すと、数が合わない瞬間に気づけます。気づいた時点で「未接触だろう」と決めつけず、支援先に確認する——ここまでを手順に書いてあります。
3回やり直してから、型に「控え」を足した
入力の工程で、こちらの想定外の事故が3回起きました。ブラウザのタブが消えて、入力途中の内容がまるごと飛ぶという事故です。2026-07-29、2026-08-06、2026-08-15。
そのたびに文面を組み立て直していました。原因は、手順書に個社別の2段落目しか載せていなかったことでした。名前も、フリガナも、メールアドレスも、本文の全文も、その場で組み立てていたので、飛んだら最初からやり直しになります。
いまは手順書に欄ごとの完成形を全社ぶん載せるようにしました。お名前の欄に入れる文字列、フリガナ、メールアドレス、そして本文の全文。控えがあれば、タブが消えても貼り直すだけで済みます。
AIに工程を渡すと、速くなるぶん失敗も速く起きます。渡す前に、やり直しのコストを先に潰しておく。 この記事で書いていることの中で、他の業務にそのまま持っていけるのはたぶんこれです。
手をかけるのは、冒頭の2行だけ
文面についても書いておきます。共通本文は全社同じで構いません。個社別にするのは第2段落だけです。
その第2段落には、相手のサイトから取った事実を必ず1つ入れます。 御社のサイトでこれを拝見しました、そのうえでこの部分でお役に立てるのではないか、という形です。読み手が最後まで読むかどうかは、ほぼこの2行で決まります。
ここが、AIを入れて一番はっきり変わったところでした。文章を大量に書けるようになったことではなく、20社ぶんのサイトを読んで、それぞれから使える事実を1つずつ抜き出せるようになったことのほうです。人がやると、10社目あたりで「どの会社も似たようなもの」に見えてきます。
なお、送信件数や返信率をここに書きたいところですが、うちの数え方がまだ固まっていません。実測できていない数字は出さない方針なので、固まったら別途書きます。
型にしたら、指示が1行になった
ここまでの手順は、いまは1つのファイルにまとめてあります。Claude Code の Skills です。「フォーム営業して」と頼めば、未接触の抽出から実査、文面、入力、記録までを同じ順番で回します。
このファイルを作ったのは、同じ手順を14日で3回やったあとでした。3回目に「前回どうやったんだっけ」と探している自分に気づいたのがきっかけです。判断の基準まで含めて書き切れる作業は、だいたい手順書にできます(書き方と分量はClaude Code Skillsとは?に、逆に手順書にせず担当ごと分けるべきかの判定はサブエージェントの「作らない基準」に書きました)。
営業以外にどの業務が同じ形になるかは、Claude Codeでできる業務一覧のほうが早いかもしれません。
冒頭で、一番効いたのは任せなかった工程のほうだ、と書きました。それは送信ボタンだけは人が押す、と決めたことです。
一見すると、自動化の手前で止めている中途半端な設計に見えます。実際は逆でした。外に出る瞬間に人の目が1回入ると分かっているから、その手前の工程を安心して全部渡せます。もし全自動を目指していたら、抽出も実査も文面も、怖くて一つも渡せなかったはずです。
止める場所を1箇所決めると、渡せる範囲がむしろ広がる。 うちがAI社員に業務を渡していくとき、毎回ここから設計しています(考え方の全体はAI駆動経営とは?とAI社員のつくり方にまとめてあります)。
「うちの営業だと、どこまで任せられるのか」——止める場所は、事業と商材によって変わります。AlterSyncの無料相談では、その線をどこに引くかからお話ししています。